猫山さんと猫谷さん

最近は寒くなってきたので、あまり見かけなくなったが、茅ヶ崎にも野良猫がいる。意外かと思われるかもしれないが、本当にいるのである。とは言え、東京の猫みたいに図々しくはない。あまり人様とは関わらず、ひっそりのんびりと暮らしているようである。ゴミを漁っているのは見たことがないし、不貞不貞しい視線を人間に向けることもない。

まだ練馬に住んでいたころ、僕はバイクに乗っていた。アパートの前にバイクを止めていたのだが、冬の寒い時期になるとバイクのシートの上には猫が3匹ぐらい座っている。シートが黒いので日光を吸収して暖かくなるらしいのだ。バイクの下には順番待ちの猫までいる始末。自分のバイクを猫に占領されるなんて思ってもいないので、あっけにとられてみていると猫は僕の顔を睨み付けて、
「何かご用かしら?座りたいなら順番を守りなさい」
みたいな感じ。少し遠慮しながらバイクに近づくと、ササッとバイクから離れるのだが、恨めしそうな目で睨み付けられた。多分、懐の狭い奴だと思っていたんだろう。

そんなわけで僕の猫に対するイメージはあまりよろしくなかった。でも、茅ヶ崎に住んでいる猫は、適度に人間と距離を置いているので、感じがよい。高飛車な猫、というイメージではなく、気ままな猫、という感じ。東京の猫とは友達になれる気がしなかったが、茅ヶ崎の猫とは友達になれる気がする。とは言え、猫には人間と友達になる気はサラサラないのではあるが。

近くの公園を歩いていると、立て続けに猫を2匹見かけた。やはり人様に興味はないようで、スタスタと何処かに歩いていった。毛が短くて白い猫だったが、尻尾だけが灰色と黒の縞模様だった。そう言えば、さっき見た猫は尻尾が短かった。なんかケツに団子が付いているみたいな感じ。
やはり、尻尾の短い猫谷さんは、尻尾の長い猫山さんにあこがれを抱いているのだろうか。猫谷さんは尻尾が短いというだけで、不条理ないじめにあったりしているのだろうか。動物の尻尾はバランスを取るために必要な器官だというのを聞いたことがある。野生の動物にとって、バランス感覚にハンデを持つというのは結構致命的なことではなかろうか。それが原因で、食うに困ったりはしていないのだろうか。そんな猫谷さんを見て、猫山さんは食事を分けてあげたりはしないのだろうか。

そんなことを考えはじめたら、気が気でなくなり、奥さんに相談した。奥さんはヤレヤレといった顔をしていた。

ちなみに、今住んでいるマンションの隣に住むご家庭は、猫を飼っている。窓際で日光浴をなされているのを時折お見かけする。真っ白い猫で、鼻っ柱の強そうな顔をしている。この猫とは友達になれそうにない。マンション内で動物を飼うことは禁止されているのだが、通報はしないでいる。恩を売っておけば、後々友達になってくれるかもしれないからだ。