レディー・ジョーカー

好きな作家が、「多作」なのか「寡作」なのかは、結構な問題であると思う。

レディ・ジョーカー〈上〉

レディ・ジョーカー〈上〉


レディ・ジョーカー〈下〉

レディ・ジョーカー〈下〉

マークスの山」「照柿」に続く合田刑事シリーズ第3弾。相変わらずの高村節。とは言え「照柿」のように暴力的な感じは薄い。圧倒的な筆力を武器にゴリゴリと進んでいくという感じではなく、読み物としてのバランスを取ろうとしている感じがする。ただ、焦点が定まらないという感じも否めない。描かれる事件には複雑な伏線がいくつも張り巡らされている上に、中心となる人物が数人出てくるのため、読者として視線を何処に置くかを迷ってしまう。あと、物語の始末のつけ方も、あまりに性急すぎて「あれ、あれ?」という感じで終わりを迎える。

「照柿」の印象が強烈だったせいか、物足りないという感じが否めない。

2008年テアトル宗村アワード

本当は2008年の年末に発表すべき類のモノですが、あれこれと考えている内に2009年も10日が過ぎてしまいました。
大抵の映画賞はその年に「公開された」映画のランキングになるのですが、テアトル宗村アワードは「観た」映画のランキングになります。中にはエライ昔の作品も含まれているので、注意が必要です。そして、まともな審美眼などは持ち合わせておりませんので、個人的な独断と偏見により、順位付けしております。

作品部門

  1. ノーカントリー
  2. ダークナイト
  3. ゼア・ウィルビー・ブラッド
  4. クライマーズ・ハイ(映画版)
  5. WALL・E

5位までのランキングです。最優秀作品賞は『ノーカントリー』になりました。おめでとうございます。ありがとうございます。2008年最後に観た『ダークナイト』との一騎打ちでしたが、僅差で『ノーカントリー』の勝利となりました。直近に見た作品と競り合うと言うことは、思いのほか差は大きいのかも知れません。『ゼア・ウィルビー・ブラッド』も好みの作品なのですが、少し相手が悪かった。2位と3位の差は結構なモノがあります。邦画では『クライマーズ・ハイ』が唯一4位にランクインです。今年観た日本映画の中では、ブッチギリの一位です。あまりプロモーションを打ってないらしく、話題にも上らない作品でしたが、非常に良くできた映画だと思います。『WALL・E』は勘違いの可能性が高いです。悪い作品ではないのですが、観てからの時間があまり経っていないことが一番の要因である可能性が高いという意味で。

俳優部門

  1. 堤真一
  2. 佐藤浩市
  3. ソン・ガンホ

2008年は堤真一の年だったと思います。劇場公開された『クライマーズ・ハイ』『容疑者Xの献身』はどちらも好演でした。比較的シリアスな役を演じることが多いみたいですが、実はコメディに向いているのではないかと思います。他の受賞者である、佐藤浩市、ソン・ガンホのように、2009年はコメディに挑戦して欲しいと思います。

残念賞

  1. チームバチスタの栄光
  2. ハッピーフライト
  3. グッド・シェパード
  4. しゃべれどもしゃべれども
  5. ハンサム★スーツ

「惜しい」という意味ではありません。本当に「残念」だった作品です。一位の『チームバチスタの栄光』がダントツでした。コメントはありません。邦画が4作品ランクインする中、『グッド・シェパード』が洋画で唯一のランクインです。役者のギャラは2008年で一番高く付いた作品だと思いますが。
しかし、日本の映画は酷いですね。特に、制作陣の中にテレビ局と電通が入り込んでいる作品は平均的にヒドイと思います。

ノミネート作品

最後に、2008年に観た映画の一覧です。90本近く観ていたようです。2009年は100本を目標にしたいと思います。

  1. ダークナイト
  2. WALL・E
  3. TOKYO!
  4. アメリカン・ギャングスター
  5. トロピック・サンダー/史上最低の作戦
  6. ハッピーフライト
  7. パラノイドパーク
  8. ダージリン急行
  9. チャーリー・ウィルソンズ・ウォー
  10. ハンサム★スーツ
  11. HEROES/ヒーローズ シーズン2
  12. CUBE
  13. ヒトラーの贋札
  14. ギター弾きの恋
  15. 容疑者Xの献身
  16. それでも生きる子供たちへ
  17. ゼア・ウィルビー・ブラッド
  18. クローバーフィールド
  19. チームバチスタの栄光
  20. 美しき野獣
  21. 春の日は過ぎゆく
  22. 大統領の理髪師
  23. 南極日誌
  24. ミルコのひかり
  25. 家族の誕生
  26. 姑獲鳥の夏
  27. Inside Actors Studio
  28. トニー滝谷
  29. 再会の街で
  30. 迷子の警察音楽隊
  31. みんなのいえ
  32. earth
  33. その名にちなんで
  34. ノーカントリー
  35. バンテージ・ポイント
  36. クライマーズ・ハイ(映画版)
  37. 4分間のピアニスト
  38. 崖の上のポニョ
  39. クライマーズ・ハイ(NHK版)
  40. 潜水服は蝶の夢を見る
  41. ジェシー・ジェームズの暗殺
  42. 震度0
  43. 宇宙戦争
  44. ラヂオの時間
  45. トランスフォーマー
  46. クワイエットルームにようこそ
  47. 殺人の追憶
  48. 題名の無い子守唄
  49. ONCE ダブリンの街角で
  50. 告発
  51. テラビジアにかける橋
  52. しゃべれどもしゃべれども
  53. サイドカーに犬
  54. 天然コケッコー
  55. 自虐の詩
  56. オリヲン座からの招待状
  57. 父の祈りを
  58. 間宮兄弟
  59. ライフ・イズ・ビューティフル
  60. カンナさん大成功です
  61. ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還
  62. ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔
  63. ロード・オブ・ザ・リング 旅の仲間
  64. グッド・シェパード
  65. マジックアワー
  66. サルバトールの朝
  67. ショート・カッツ
  68. 大日本人
  69. HEROES
  70. 21グラム
  71. 砂時計
  72. ディアハンター
  73. 赤ちゃんの逆襲
  74. 300
  75. ナンバー23
  76. ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習
  77. JSA
  78. パラダイス・ナウ
  79. デスプルーフ
  80. オーシャンズ13
  81. 舞妓Haaaan!!!
  82. SiCKO
  83. キサラギ
  84. マザーテレサ
  85. 東京タワー
  86. レミーのおいしいレストラン
  87. 犯人に告ぐ
  88. ニュースの天才

4ヶ月、3週と2日

藤沢のスターバックスでコーヒーを飲んでいると、隣の席で外国の女の人と日本人のオッサンが、一生懸命話している。悪いとは思いながらも、耳はドンドン大きくなる。どうもロシア語を話しているようで、奥さんも「ダー、って言ってたからそう思うよ」とのこと。定年退職後に一念発起してロシア語を学ぼうと思ったのだろうか。それにしても、何故ロシア語なのだろうか。日本人にとっては、アラビア語と並んで最も習得の難しい言語だと聞いたことがある。僕が卒業した大学でも、あまりの難しさに生徒が出席しなくなってしまい、ロシア語のクラスが解散になったという話も聞いた。あのオッサンが純粋な向学心でロシア語を勉強しているのなら結構なことであるが、33歳の男の目には、あのオッサンの後ろにロシアンパブの影がチラついて仕方がないのである。純粋な向学心よりも、強力なモチベーションなのかも知れないが。

2007年のカンヌ映画祭パルムドールを獲得した作品。同じ年のエントリー作品には、「ノーカントリー」がある(これはオスカーを獲っている)。他にも、「潜水服は蝶の夢を見る」とか「パラノイド・パーク」なんかがエントリーされている。その中でパルムドールを獲得したのだから、相当凄いのだろうと期待して観た作品。予告編も何度か観たが、面白そうな感じだった。

本当に意味が分からなかった。タイトルからも想像が出来るように、ある女の子の中絶を巡る騒動を描いているのだが、結末があまりに唐突。エンドロールを観ながら、良かった点を思い返してみたが、5秒ぐらいで諦めた。良い・悪いの評価以前の問題で、物語として何を語ろうとしているのかが、今でも理解できない。

手持ちカメラ、長回しを多用しているので、スクリーンからは不穏な感じが滲み出ている。映像もトーンが暗めで、観ているだけでハラハラする。この辺りは、監督の意図するとおりの演出なのだろう。中絶をする女の子の超無責任っぷりと、それを助ける女の子の歯を食いしばっている感じが良く出ていて、演技も大した物だと思う。ただ、結末が本当に唐突で、一瞬何かの間違いではないかと思うほど。劇中に散りばめられていた、伏線(のようなモノ)は一切使われることなく、何の説明もなくスクリーンが暗転する。

これだったら、「ノーカントリー」の方が良かったんじゃないのって思う。

人のセックスを笑うな

タイトルを観て、借りることを一瞬ためらってしまった。中学生ではあるまいに。精神年齢は小学生レベルですがね。

人のセックスを笑うな [DVD]

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原作のある映画らしいが、原作は読んだことがない。映画を観た後も、読む気にはなれない。
永作博美蒼井優が出演している。永作博美は自由奔放な大人の(魔性の)女性を、キッチリと演じきった感じ。蒼井優は(恋に破れた)片思いの大学生を、演技なのか素なのか分からないぐらいに自然に演じている。どちらも好演。蒼井優はTシャツよりもセーターが似合うと思う。

引きの映像、固定カメラ、長回し。3点セットで揃っている上に、上映時間も2時間オーバー。モラトリアムの空気が充ち満ちている地方の美術大学が舞台となると、否が応でも映画の後半はダレ気味になってくる。でも、この映画のウリは、その「ダレ気味」な空気感だと思うし、監督もそれを意図して、あえて長めにカットを切っているハズ。普通の映画と同じ感じでカット割りをすると、松山ケンイチ蒼井優のプロモーションビデオになってしまう。そんなモノを金払ってまでは観たくない。
ラストシーンは結構良かった。監督はこのシーンを取りたかったのではあるまいか。

グエムル

年末年始の特番ラッシュにウンザリ。学生の頃やっていたビデオ屋店員。年末年始が異常に忙しかった理由が、社会人になって身に染みて理解できる。「テレビが面白くなくなった」と声高に叫ぶ人もいるけど、年末年始の特番は、15年以上前から面白くなかったのだ。あと、再放送がやたらと多いのは、テレビ業界の深刻な不況を良く表していると思う。

グエムル-漢江の怪物- スタンダード・エディション [DVD]

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「殺人の追憶」に引き続き、ポン・ジュノソン・ガンホがコンビを組んだ映画。期待せずにはいられない。日本では「モンスターパニック」映画のようなプロモーションがされていたので、そのつもりで観ていたのだが、鑑賞後にどれだけ考えても、「コメディ」にしか思えなかった。

確かに、得体の知れない怪物が出てくるし、その容貌はゴジラよりも怖い。ゴジラみたいな現実離れした大きさではなく、4トントラックぐらい大きさのの半魚人が素早く動き回る姿を想像すればよろしい。その意味では確かに怖い。が、それを取り巻く人間を切り取る視点、つまり監督の視点がシニカルなのだ。「モンスターパニック」を期待して映画館に足を運んだ人は、笑って良いものか迷うのでは無かろうか。「殺人の追憶」でも、幾つかそんなシーンがあった。この監督のクセなのだろうが、個人的には好きなクセである。

ソン・ガンホは間抜けなお父さん役で出演。相変わらずの好演。怪物はロード・オブ・ザ・リングのCGチームが、竹中直人をモチーフにして作ったとか。怪物のモチーフにされる人間も複雑な心境だと思うし、人間をモチーフに怪物をモデリングできるクリエイターも大した物だと思う。

ちなみに、タイトルの「グエムル」というのは、日本語で「怪物」という意味。「グエムル」という名前の怪物、ではなくて、「怪物」。タイトルから受ける印象は、日本と韓国では、エライ違いだ。日本で大コケした原因の一端はこんな所にもあるのではなかろうか。もちろん一番の原因は、イケメン韓流スターが出演していないこと。韓国映画が全て日本でヒットする訳がない。