リヴィエラを撃て

リヴィエラを撃て〈上〉 (新潮文庫)

リヴィエラを撃て〈上〉 (新潮文庫)


リヴィエラを撃て〈下〉  新潮文庫

リヴィエラを撃て〈下〉 新潮文庫


いつの間にか東野圭吾強化月間は終了し、高村薫強化月間が始まっております。この後にも、3作品ほどが待機中。
今まで読んだ高村薫の本(マークスの山照柿)とは違い、舞台が海外。IRAとかMI6とかCIAとか、各国の諜報機関が登場します。当然、名前もカタカナ。実はワタクシ、海外の作家が書いた本が苦手。その理由の一つに、「名前がカタカナだと、覚えられなくなる」というのがある。「あれ、ジョージって誰だっけ?マリーの旦那さん?」という具合で、巻頭に付いている登場人物一覧にたびたびお世話になる。。マークスの山照柿も警察関係の登場人物がとても多くて、おまけにそれぞれを「あだ名」で呼んだりするために、人物関係を把握するのにとても時間がかかる。自分自身でも「小学生みたいだな…」と思うが、仕方がないのだ。そんなこともあってか、読み切るまでに恐ろしく時間のかかった。旅行などのイベントが重なったこともあるが、読了までに1ヶ月程度。

話の3分の2ぐらいはIRAのテロリストが主人公として描かれているが、これがビックリするぐらいアッサリと死んでしまう。死んだという事実を10行程度で伝えるだけで終わってしまう。これが理解できない。これまであれほどのページ数を割いて描いてきたテロリストの内面を、そんなに簡単に捨て去ってしまって良いものかと。テロリストを中心に最後まで書ききろうとすると、収拾がつかなくなる可能性もあったかも知れないが、出来ればその方向で話をまとめて欲しかったなと思う。物語のラストが「リヴィエラ」本人の独白による結末というのは仕方ないにしても、それに至る過程がどうしても受け入れがたいモノとなった。

あと、国際的な諜報活動を舞台としてしまった時点で、少し風呂敷を広げすぎているのではなかろうか、とも思う。緻密な描写を丹念に積み重ねることによって、ジワジワと浮かび上がってくる登場人物の心理。これが高村薫の真骨頂だと思う。その意味で照柿高村薫の(好みの分かれる作品ではあると思うが)代表作となるだろう。しかし、この作品のように舞台の範囲を広げてしまうと、緻密な描写も、その濃度が薄くなってしまう気がする。実際の所は、細かい風景描写が丹念に積み上げられており、他の作品と変わらないと思うが、ブルドーザーが轟音を立てて進むような、特有のドライブ感はこの作品からは感じることが出来なかった。