照柿

照柿

照柿


マークスの山」に引き続き、高村薫の小説。合田という刑事を引き続き起用しての第二弾小説。ミステリー小説だと思って読み始めたのだが、読み終わってみればドキュメンタリーを読み終わったような気持ちになった。ミステリーと呼べるほどの仕掛けがあるわけではなく、ただ寡黙なまでにコツコツと表現を積み上げていく「高村節」が最初から最後まで続くだけ。ファンにはたまらないだろうけど、初めて高村薫の小説を読む人は、間違いなく「退屈な作家」と評価するに違いない。でも、読み終えてみれば凄い作家だとわかると思う。「マークスの山」では雪山の寒さを、「照柿」では都市の茹だるような暑さを、見事なまでに表現しているから。読んでいて実際に暑く感じるのだから。
物語の終盤、主人公は突発的に殺人を犯してしまうのだが、読者はその突発的な殺人を何故か受け入れることが出来る。物語の序盤からコツコツと積み上げられた描写の一つ一つが、主人公の殺人という形で結実するからだ。主人公が殺人を犯す場面で、読者はカタルシスを得る。他の小説には見られない物語だし、それを可能としているのは、作者の緻密な描写だと思う。これこそがこの作家の真骨頂だと思うけど、嫌いな人も多いだろうなとも思う。
ずっと作者は男性だと思っていたのだが、実は女性であることが判明。こんな男気溢れる文体で小説を書いているし、名前も「カオル」だし、絶対に男だと思っていたのだが、アッサリと裏切られました。え、知っていた?結構間違えていたり、知らなかったりする人は多いと思うけどなあ。
そして、続編となる「レディージョーカー」を買おうと本屋に行くと、まだ文庫化されていないとのこと。「もうだいぶ昔の小説なんですけどねぇ」と店員さんも苦笑い。早く文庫化されないものだろうか。