マークスの山

マークスの山 (ハヤカワ・ミステリワールド)

マークスの山 (ハヤカワ・ミステリワールド)


序盤の退屈さを過ぎれば、あとはドンドン読み進めることが出来た。重い荷物を積んだトレーラーが「ゴゴゴゴ・・・」という音を立てて進んでいくような、どうにも止まらない感覚。序盤でコツコツと積み上げた細かい描写が、物語の核心部分で効いてくる。読み終わってみれば、序盤の退屈さにも意味があるのだと思える。あの部分がなければスカスカの小説になっていただろう。ただ、序盤でリタイアした人も多いだろうなと。
読み終えた直後、物語の終わり方に疑問を感じた。主人公と犯人が対峙して、何らかの結末を迎えるものだと思っていたが、そうではなかった。それ故に、明確な犯人像をとらえることが出来ないまま、あまりに唐突に物語が終わってしまう。犯行に至る過程は語られてはいるが、その犯行に至る動機がハッキリとしない。つまり、ミステリー小説に必要なカタルシスを得ることが出来ないまま、物語が終わってしまうのだ。
しかし、主人公と犯人が対峙するという結末も、あまり似つかわしくない気がする。犯人の異常性を細かく描写しようとすると、何処かで無理が出てくるのではなかろうか。その時点で犯人は異常者ではなく、普通の人間になってしまう。そうなった時、物語は致命的な欠陥を抱えることになりそうな気がする。
そういう風に考えていくと、色んな意味で計算され尽くした物語なのではないかと思える。「大作」というよりも「力作」という褒め言葉が似合う作品だと思う。同じ主人公を据えた続編があるらしいので、是非読んでみたい。また、歯を食いしばりながら読むことになりそうだが。