疾走

疾走

疾走


重松清の小説は初めて読む。小説に関する予備知識も全くなし。表紙の写真(イラスト?)が妙に不穏な感じなので、脳天気な話でないことは理解できるが、「さて、どんなものかしら?」という感じで読み始める。

暗い話だった。本当に救いがない。受験勉強を控えた中高生の皆さんには、太宰治の「人間失格」並みにお勧めできない
。ある一家の崩壊を丹念に描いているのだが、その描写が緻密すぎるので読者側には逃げ場がない。筆力も相当なもので、結構な力で引き込まれるものだから、なおさらタチが悪い。全編の9割5分が暗い話。救いとなる部分が最後の5ページ程度。感じ方は人それぞれだろうが、僕には「救われた感」のない小説だった。

書き方も少し変わっている。「一人称」と「三人称」を混在させた形で話が進むのだが、「三人称」は物語を俯瞰するのではなく、「一人称」に対して語りかけるのだ。「おまえは・・・」と主人公の感情を明け透けに説明する。これは、物語のラストに向けての仕掛けの一つなのだが、読み始めの頃は非常に違和感を覚える。読者としての視点が上手く定められないのに加えて、読者自身に対して語りかけられているような感じがして、非常に落ち着かないのだ。とはいえ、500ページにもわたる話を、この手法で書ききるのは凄い技量だと思う。

力のある作家さんというのは、この作品を読んだだけでも良くわかる。読む本に困ったら、この作家さんの作品を読んでみようと思う。次は「ビタミンF」かな。